半年間牢獄で過ごし、殺処分寸前にレスキュー。

最後は最高の犬生を送ったイングリッシュセッター・デューク。

 

 普段は殺処分の犬たちをメインに
 保護活動をしている団体に
 ミニピン・とろろの里親探しの依頼をして
 イレギュラーで募集をかけてもらったので、
 その代わりというか、その流れで私は
 保護犬の一時預かりをするようになりました。
 

 

 「2頭候補がいるんだけど、どっちがいい?」
 

 

 早速レスキューの話が来て、
 緊急性を感じたのを覚えています。
 夫と話し合って、
 

 

 

 「まともに歩くことのできない、
 

  ガリガリに痩せ細った、
 

  半年間センターの地下室に収容されて
 

  ボランティアの誰も引き取りがないために
 

  ついに殺処分が決まったという
 

  イングリッシュセッター(オス)
 

  推定7歳~9歳」
 

 

 

 を預かることに決めました。
 

 

 通常は収容期限があり、
 半年間も殺処分しないで生かしておく、
 ということは稀なことです。
 

 動物愛護のふれあい動物として
 見出された犬や猫たちは別です。
 職員たちと同じ階の部屋にいて、
 そこは待遇はとても良いですが、
 地下室にいるということはその対象ではない。
 

 

 けれども、「何か」がその犬には
 職員たちの心に引っかかるものがあって、
 誰かが引き出してくれるのを
 半年間も待ち続けた…ということは、
 

 その犬には何かしらの魅力があるのだろうと、
 私たちはそこに希望を持ちました。
 

 

 実際の性格は引き出してみないと
 分からないことも多いですが、
 私の知っているこの犬種の知識では
 

 「温和で従順、まず咬むことはない
 

  八方美人で、優しい性格」
 

 

 

 大型犬は里親募集をかけても
 なかなか引き取り手がいないため、
 引き出しにはそれなりの責任がつきまといます。
 

 夫と相談して、預かりボランティアとはいえ、
 万一の時は自分たちで飼う覚悟を決めて
 その犬を引き出しました。
 

 

 

 センターから引き出した翌日に
 動物病院で診察を受けてから我が家に到着しました。
 

 

 話には聞いていましたが、
 下半身が異様に痩せ細っており、
 肋骨がはっきりと分かるほど。
 

 自分の足で10秒も立っていられず、
 室内に入れるとすぐその場でお漏らししました。
 

 けれど、しっぽを懸命に振って愛想を振りまいていました。
 予想した通り、大変温和で従順な性格でした。
 

 半年間も狭いケージの中で過ごしていたので
 後ろ足の筋肉が完全に落ちていました。
 

 本当に5歩も歩けないのです。
 下半身がよろめいてすぐに
 バタッバタッと倒れてしまいます。
 

 おしっこもすぐジャバジャバ。
 しばらくは便も尿も垂れ流しのような状態でした。
 

 

 体を動かすだけでもすぐに息は切れ、
 体重は25kg以上はあってもいい体格なのに、
 10kg前後だったと記憶しています。
 

 すぐに疲れるので、
 ほとんどケージの中で過ごしていました。
 

 

 病気はなかったのは本当に幸いでした。
 栄養失調と筋肉低下がひどかったので、
 質の良いフードとビタミン剤、
 犬の体調に合わせて外に連れ出し
 歩行訓練を少しずつ始めました。
 

 

 さて、皆さんのイングリッシュセッターのイメージは、
 どんな感じですか?
 

 一般的に知られている特徴は、
 

 「イギリス貴族が飼っていた鳥猟犬で、
  気品があり、高潔で自信家、
  頑固な面もあるが忍耐強く、
  子供の良い遊び相手にもなる、
  家庭犬としてもふさわしい犬種」
 

 また、ある本には、
 

 「ショードッグに出場すると
  イングリッシュセッターは
  “自分が人々から見られている”
  ということを理解していて、
  他犬に目を暮れることはなく、
  観客の視線を集めることに優越感を抱き、
  威風堂々とプライド高く、立ち回る」
 

 そのような紹介をされていたことが
 強く印象に残っています。
 

 

 なのに、全くそんなプライドも
 気品もなくしてしまった彼に
 私は敢えて「尊厳」を
 感じれらるようなものにしたくて、
 イギリス貴族のイメージから、
 

 

 「デューク」(公爵)と名付けました。
 

 

 

 少しずつ食べる量も増え始め、
 体力もついてくると、今度は、
 デュークが「精神的なトラウマ」を
 抱えている事に気がつきました。
 

 そう分かったのは、
 深夜に突然、唸りをあげたり、
 吠えたりすることがあったことでした。
 

 

 おそらく、地下室での、
 恐ろしい出来事を思い出すのだと思われました。
 昼間でも、寝ながら突然悲鳴をあげることもありました。
 

 

 皆さんもテレビ等でご存知かも知れません。
 処分施設の構造は1日ごとに壁が動いて、
 最後は最奥のガス室に追い込まれて
 犬たちは苦しい思いをして死んでいきました。
 ガス室は決して安楽死とは言えません。
 

 (数年後より神奈川県では、
  職員の手による睡眠薬と注射での
  安楽死の方法になりました。
  職員の方々のお心を思うととても
  言葉にできませんが、動物たちが
  少しでも楽に行けたことは確かです。)
 

 

 こうして毎週繰り広げられる光景を、
 人間よりも数倍の感覚器官を持っている犬が
 見て、聞いて、匂いを嗅いで、
 まともな精神でいられるわけがないんですよね。
 

 私がデュークにしてあげられることは、
 できるだけ自然の多い場所に連れて行き、
 太陽の光を浴びて、緑の匂いを嗅がせて、
 この犬種の本能みたいなところを
 取り戻してあげる、そんなことくらいでした。
 

 

 レスキューして半年近く経ってからだったと思います。
 体力が戻ったので、去勢手術を受ける事になりました。
 とうとうボランティア団体のWebサイト上で
 里親募集を掲載する運びとなりました。
 

 動物病院で診察を受けたときの写真をご覧頂きたいです。
 デュークのとても人間好きで従順で
 可愛いところが一目でわかると思います。
 

 

  この犬は、とても人に馴れて、
 

  人を好きで、信じている、
 

  大きなつぶらな瞳で、
 

  猫みたいな体重になっても、
 

  恐ろしく暗い牢獄に閉じ込められていたとしても
 

  希望を持って生き抜いてきた子です。
 

 

 絶対に、幸せにならなくてはいけないと、
 そうでないと不公平すぎる。
 デュークが幸せになれる家庭を心から願いました。
 

 

 募集をかけてから2週間くらいで
 里親希望者が1組だけ現れました。
 

 

 もう、本当に神様っているのだなぁ!
 

 

 おばあちゃん、お父さん、お母さん、小学生の姉・弟・妹の6人家族。
 面会は我が家にご家族揃って来られて、
 それはもう、天使が3人いるんじゃないかというくらい
 子供たちがものすごく明るくキャッキャっとして、
 

 それに対するデュークの反応が、
 

 とてもとてもとても!!!良かったのです。
 

 イングリッシュセッターの家庭犬としての良い資質が、
 瞬時に見て取れました。
 

 

 “この人たちで間違いない”
 

 

 我が家で飼うよりも、
 ずうっと幸せになると確信できましたし、
 あのトラウマも子供たちの強い光で
 きっと癒やされるだろうと信じる事ができました。
 

 

 ほぼその場で譲渡が決まり、
 後日、お届けしてトライアル期間を経て、
 デュークは無事、正式譲渡となりました。
 

 

 その後は何度もメールやお写真をいただき、
 子供たちに乗っかられながら昼寝をしているシーンや
 自転車で引き散歩をしているところ、
 別荘(!)でご家族と過ごしているお写真を拝見して、
 デュークは本当に最高の幸福を得たなと思いました。
 

 

 それから8年くらい?
 デュークは幸せな日々を過ごし、
 ご家族に見守られながら他界しました。
 ご家族と過ごした別荘地のお庭に
 お墓をつくったそうで、
 最期まで大切に飼ってくださり、
 本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
 

 

 また、実はこちらのお宅で、
 デュークが生きている間にもう1頭、
 我が家から保護犬をもらってくださいました。
 

 しかもこれまた同じく、イングリッシュセッターです!
 

 この犬もまた、大変な大怪我をして収容された犬なので、
 このお話もまた今度書かせて頂きたいと思います。
 

 

 

  ☆☆☆
 

 デューク、ありがとう。
 本当に君はみんなに優しかったね。
 人間に酷いことをされたのに、
 それでも信じてくれて本当にありがとう。
 今頃君はどうしているのかな?
 あれだけ辛い経験をしたのだから、
 もうあんな経験はしないでほしいよ。
 沼地で鴨を追いかけて飛び込んだ時は本当に驚いた。
 泥だらけの君を引き上げるのは本当に大変だったよ。
 こちらまで落ちそうになったくらいだ。
 でもあの時にわかったんだ。
 君はもう大丈夫になったんだってことを。
 これは私の勝手な空想だけれど、
 君はハンターに飼われていたね。
 鳥を追って、追いすぎて迷子になって帰れなくなったんだ。
 飼い主は探したかもしれないけれど、
 君を置いて帰った。
 何も知らない君は簡単に捕獲された。
 まさかあんな暗い牢獄に閉じ込められるとは知らずにね。
 けれど、君は信じていた。
 自分は他の犬たちとは違うと、
 プライドと確信はあったんだ。
 だから助かった。
 そして遊び好きの君は天に願った。
 君は自分であの家を引き寄せたんだろう?
 みんながすぐに君の虜になった。
 美しい毛並み、そばかすの君。
 近所で話題の最高にかっこいい犬!
 なりたい自分になれて良かったね。
 幸せを手に入れたね。
 本当に良かったよ。
 君が幸せになれて、私も幸せになれた。
 だからありがとう。
 デューク、大好きだよ。
 

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